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昔ながらのクリーニング屋さん  
 ▼「叶(かのう)ランドリー」
  蒸気が立ち上って周囲に靄(もや)がかかる中で、全身を使った、まるで音楽に合わせてリズムを刻んでいるような動き。
何年も何十年も繰り返してきたに違いないこの動作の全てで、乾燥機から出てきたばかりの皺(シワ)くちゃな衣類に張りを作っていく。
Yシャツの袖口を引っ張る微妙な手さばきに合わせてアイロンが生地の上を滑るだけで、魔法のように皺が取れ、きれいな折り目が現れる。
吊るしたままの背広の上着にアイロンをかざせば、新しい命(?)を吹き込まれたみたいに艶が出てくる。

思い出してみれば、以前は街中のクリーニング屋さんでよく見かけられたアイロン掛けの風景。それがいつの間にかチェーン店の受け渡しの窓口しかなくなり、どんどんと街中からそんな風景も消えていってしまった。

大阪駅から環状線でたった一駅の「JR福島駅」、すぐそこに梅田の高層ビル群が立っているので感覚的にはオフィス街のようにも思えるこの町の路地の中に、地域に根付いた昔ながらのクリーニング屋さん「叶ランドリー」がある。
家族の3人の協力で成り立っているこの店は、懐かしい情景を見せてくれるだけではなくて、今も息づく職人技とこだわりを感じさせてくれるドリームハウス。

 

福島区の近辺なら集配を行ってくれる。顧客を回れば、折り目の一つ、汚れ落ち、染み抜きの一つにでも細かな注文に接することになる。しかし、単に受け渡しの窓口しかないところと違い、常に顧客に直接触れているクリーニング店だからこそ、これぐらいきれいになっていればいいか、といった安易な妥協は許されなくなってしまう。それが、店のプライドになり、信用を勝ち得る方法だと言うことは間違いない。

ここでは手洗いするものが多いことも特徴の一つ。ドライクリーニングの方がわずらわしくなくていいのだそうだが、生地や汚れの状況を見て、どうしても細かな洗いをしてしまうらしい。衣類を作っている繊維の種類も増え、その組み合わせも複雑化して、汚れの種類もまた同様に複雑になってきている。街のクリーニング店が生き残っていくためには、固定客の上に胡坐をかいていているわけにはいかず、常に勉強とチャレンジが求められている。

梅田界隈の飲食店が一番の取引先。汗と油、食材の匂いなどを染み付かせたコックの白衣をはじめとして、Yシャツやブラウス、黒服、ユニフォームなど、どれも客を迎えるために必要な大切なもの。店の印象をその服が造っている部分も確かにある。ここでは無理に漂白をしたり硬くアイロンがけをしたりして真新しく見せるような仕上げをあえてしない。その服を長く着られるように洗いに出す前と同じ感触と色落ちをさせないことに気を使い、いつも変わらない清潔感を出すことに専念していると言う。背広も同じ。高級な背広の風合いを保たせるようソフトに仕上げることで背広の寿命がずいぶん延びていると喜ばれる。

集配に回る店だけがもちろん顧客じゃない。思い出の詰まった皮と布が織り合わさったカバンを何とかきれいにして欲しいと持ってきた人がいる。明日着て行かなければならないからと染み抜きを頼みに来る人もいる。大手のクリーニング店に出してごわごわになってしまったものを何とか元のようにしてもらえないかと頼みにも来る。洗い方を訊ねに来る人もいる。こんな風に街のクリーニング屋さんならではの情景もあれば、その一方、宅配便でクリーニングを依頼してくる人、遠方から車や電車を使ってわざわざ持ってくる人もいる。

チェーン店が増え、速さや安さで便利になったとはいえ、大切なものはやはり信用の置ける店できれいにして欲しいと思うのも当然のこと。いまのディスカウントブームの走りは衣類だった。そのため、衣類も使い捨てのような感覚で切られることも多くなってしまったようにも思う。でもその反対に、ずっと大切にしたいもの、長く着続けていたいものを持つ人も数多くいる。衣類を守る専門家として、クリーニング店にはそんな人たちの思いを守ると言う仕事もあるのかもしれない。

 

人が社会で生活すれば、生活に必要な品々にその人の生活が映り込む。車や台所用品、化粧品、靴やカバンなどを見るだけでも、それを使う人の好みや仕草までがなんとなく推理出来てしまう。当然クリーニングに出される服たちにも生活が映し込まれている。でも、他の品物とは少し違った映り込みがされているかもしれない。なぜなら、その服を着ていたときの状況が、他のどの品物よりも印象にあること。誰かの結婚式、どこそこでの研修、いついつのデートと言った具合に、いろんな思い出がその服や小物の中に詰まっている。もちろん良い思い出も、忘れてしまいたい思い出もあるだろう。思い出の詰まった一着(一品)の汚れが落とされていくことで、思い出もふるいにかけられ、大切な思い出だけを残して、新しい思い出に染まる準備をするということかもしれない。

ビニールのカバーを破り、シャッキとしたシャツを広げて手を通せば、新鮮さと緊張が感じられる。ただそんなことで人の気分を変えることが出来ることもまた素敵なことだと思えてならない。


今日はどんな思い出のあるものを洗っているのだろう。
 

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「叶(かのう)ランドリー」
〒553-0003大阪市福島区福島1-5-12
TEL:(06)6458-3170 (FAX共用)
営業時間  9:00 〜 20:00
 休 日   日曜日

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