今回は関西有数の墓地を訪ねた。燦燦と陽が差す広大な敷地、眼下に広がる山の緑と都会の町並み、全て舗装されたバリアフリーの道、独創性のある形も色もさまざまな墓石、それらを見ているとお墓というものに対しての日本人の意識が変わってきたことがわかる。現在のお墓事情から見えてくるものもある。
墓地といっても暗い雰囲気はまったくない。最高の見晴らし、車椅子でも支障なくお参りが出来る舗装された広い通路、管理されてきれいな園内はさながらピクニックコースといったところ。お墓参りをしながら、眺望の良さを楽しみ、実際にそこでシートを広げて食事をする人たちも少なくない。
田舎では深刻な過疎化が進んでいるため、先祖代々の墓の守りをすることもかなわない状況になっているらしいのだが、不思議なことに都会では反対にお墓が不足しているという。一家の長男が「家｣を継ぎ、先祖代々の墓を守ることが一般的だった一昔前までと違い、今は子供が都会に移り住むことも多く、生涯独身で過ごす人や、子供がいてもその子供たちがお墓を守らなくなっているため、田舎であっても手入れもされないお墓が増えている。その一方、都会ではこれまでの「家｣制度に縛られないで、「家族」や｢夫婦｣「個人」のためのお墓が求められている。「家｣でひとつだったものが「家族｣や｢夫婦｣や｢個人｣へと需要が増えれば、当然お墓の不足が生じるわけで、「お墓がない!｣という岩下志麻主演の映画の題材になるのもうなずける。
家から個人へとお墓に求められるものが変化したのは、家族で墓を管理していくのではなく、永代納骨堂や永代供養墓というずっと墓の管理を墓地や施設がするというシステムの広がりがあってのもの。海や山に骨を巻く散骨や、木とか岩とかの自然物の傍らに墓を作りそれらを墓標とする自然葬などが流行る一方で、誰も煩わせずに死んでからの居場所を確保したいと思う人もまた増えている。
また現代のお墓の特徴のひとつが、個人の思いがそのまま込められた墓としてさまざまな墓石や装飾が施されていること。
昔ならば宗派によって少し形が違うくらいだったものが、最近のものは色もさまざまなで、なによりそこかしこにオブジェがおかれているように思えてしまうほど個性的なデザインのものが多い。お墓が個人化することで、こんなにも自由になれることに驚かされる。会社の慰霊碑なども近年は増え、それもまた個人以上に独創的なデザインのものが多い。
バリアフリーの広い道は車椅子でもなんら支障なくお墓参りが出来る。連れ合いのお墓に参る老人の寂しくもあり、まだ一緒に入るのは先だよと気丈な言葉をかけているのを見ると、高齢化社会が問題になる中で、人が老いてなお｢生きる｣ことの意味を再確認させてもくれる。
無論老人だけがお墓を必要としているわけではなく、病気や事故によって不慮の死を遂げた方々の家族、親族の人にとってもお墓は慰霊と思い出をつなぎとめておくための大切な場所。お墓を訪れる人を見ることで、お墓に入っている人が生前どのように慕われていたのかがわかる。
しかし、都会の墓地もまた故人を偲ぶ場所であることは間違いないとしても、都会の墓地に求められているものは明らかに違うような気がする。
眺望のいい整備された墓地が作られるのは、お墓に入っている故人のためというよりも、むしろお墓を訪れる人のためのもの。それはなぜかというと、墓地に来ることが苦にならず、なぜか癒され、「また来ても良いかな」と思わせるためなのだと思う。空間で、見晴らしの良さ、静かさ、安全さなどもすべてが、またここを訪れたいと思わせるための演出になっている。人を暖かく迎え入れられる場所であることが、結局故人をさびしくさせない供養になっている。
考えてみるのも良いかもしれませんね、あなたのお墓はどんなお墓でしょう？
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