14 大正区渡船場巡り」

渡船って何?と思う人もいるかもしれませんね。渡船は橋の代わりに人などを対岸に渡す船、渡し舟のことです。
江戸の八百八町に対して大坂は八百八橋と言われた橋の多い町ですが、これは商都大坂が当時一番の輸送手段だった船を往来させるべく河川や運河を町中に張り巡らしていたから。橋も多かったですが、橋を架けられない大きな川や船舶の往来の頻繁ななところは渡し舟が川を渡る手段でした。淀川区の十三(じゅうそう)という地名も摂津の国の淀川の川上から13番目の渡し場から来ているとされます。
時代は変わり、昔とは比べ物にならないくらいの人や自転車、そして車が大量に川を渡るようになりました。大阪の街でも小さな川だけではなく、長堀という大きな河川までもが埋め立てられ道路になったり、埋め立てられていない川にはいくつも丈夫な橋が架けられ、そこかしこにあった渡しも姿を消していきました。それでも大阪市内には現在8つの渡し(渡船場)が残っています。いずれも大阪市が運営していて、乗船は無料、自転車でも乗船できます。
 
  *参照  大阪渡船場マップ
8つの内一つは此花区の桜島と港区の天保山を渡す「天保山渡船場」ですが、それ以外の7つの渡船は大正区で乗ることが出来ます。ということで、今回は半日かけて大正区の渡船場を歩いて巡ることにしました。



 JR大正駅からスタート。市バスが頻繁に行きすぎる広い大通りを左に、地下鉄鶴見緑地線「大正駅」の入り口の横を通って南(大正区の奥の方)へ向かう。パチンコ屋や牛丼屋、中華料理店など駅前の店舗を横目に歩きはじめ、「三軒家」の交差点を渡り、さらに南下。国道43号線の高架のある「泉尾」交差点を超えてしばらく歩くと「落合上渡船場」の左方向に向かうように矢印のついた案内板が街路樹の間に見える。

 矢印の指すとおりに左に折れると、以前栗本鉄工所の大きな工場だったところが飲食店や子供服専門店や「コーナン」などが入った「千島ガーデンモール」になっている。千島といえば大きな公団住宅のイメージがあるのだがと思い通りの反対側を見ると、やはり大きな団地が今もどっしりと存在している。その前を通り過ぎると、ここも栗本鉄工所の跡地なのだろうがいろいろなスポーツが体験出来る施設に天然温泉の「やまと湯」があった。バス停「千島公団前」のすぐ前。公団に住んでる人も便利になったんだろうなと何故か考えてしまう。帰りにはここで一風呂浴びていくかなどとも思いながら通りを進むと、すぐに渡船場を示す左への矢印つき看板が。
 左に折れると、堤防に出てしまうのではないかと思われる道を歩き、ダンプなどが入っていきそうなゲートの手前を左にカーブすると赤い郵便ポストが見える。このポストの横に落合上渡船場の入り口がある。大正駅からここまでゆっくり歩いてきて3 0分程。ちょうど出航のベルが鳴っているので急げば間に合うのかもしれないが、次のに乗ることにして写真撮影。
 スロープを登り堤防を越えると対岸の渡船場が正面に見え、そこに船が着こうとしている。
 乗客を降ろし、待合所の前のゲートが開けられると、乗ってきた人とこれから乗る人が入れ替わり、乗船が終わるとすぐに出発。S字を書くように船がこちらに戻ってくる。100メートルの岸を渡る時間はわずか1分くらい。船が着いて乗客が降りてくるが二人の乗務員も一緒に降りてきて、ゲートを閉めて堤防の脇の乗務員室に入っていった。昼間 は15分間隔での運行なので、建物の上に少し見える千島団地の横の昭和山の木々や大きな開閉式の防波堤、ゲート前の待合所の運行時刻表などを見ながら時間を過ごす。

 時間が来てベルが鳴り乗務員室から出てきて数人の乗客と自転車の間を通ってゲートを開き、船の横の扉を開いて乗客を乗せる。今回は乗客7人で、その内自転車に乗った人が4人。乗船が終わるとすぐに扉が閉められ出発。Uターンをして一旦川下に向かいまたUターンして対岸の渡船場に。乗船のときとは反対の扉が開けられ乗客が乗務員に「ありがとう」「おおきに」などと声をかけて降り、スロープでこれから乗り込む人と入れ替わる。スロープを登り堤防を越えたときにはまた対岸に向けて船が動き始めていた。渡船場のスロープを下り、工場に挟まれた道の先の信号を右に曲がって次の「落合下渡船場」を目指す。

 



 ここは西成区の北津守で、10分もあるけば南海高野線の「木津川駅」や「津守駅」に出られる。が、今回はこの工場と倉庫ばかりの埃まみれの道を南に向かう。訪れたのが年度末の3月ということも関係するのかもしれないが、この日は休日なのに工場にしても倉庫や砂利の集積場にしても稼動している会社が多い。時間に追われているのか、猛スピードで疾駆する大型トラックも多い。必ず歩道を歩きましょう。
 10分足らずで「落合下渡船場」の案内板を発見。スロープを登って川上を見るとさっき渡った「落合上」の渡船場が見えている。川下を見ると次の「千本松渡船場」の上にかかる「千本松大橋」も見える。小さな男の子を連れた親子連れと、母と娘なのだろう女性二人と乗り合わせ、こちらも船がS字を描いて対岸に渡る。初めて船に乗って喜ぶ子供の声がエンジン音の中に聞こえる。桟橋のスロープを登りきると目の前に現れる威圧感さえ感じるほどの金属スクラップの大きな山。山の淵をたどるようにスロープを下り道路に出る。

 川に沿って南へ南へ。途中に賑やかしい外装のパチンコ屋があるものの、こちらも大きな工場と倉庫だらけなところ。日本製粉大阪工場を過ぎ、公園を過ぎたところで小林公園からの道と合流し、そのまま大林道路と大阪製鐵の間を歩く。「落合下渡船場」から15分で「千本松大橋」の螺旋スロープの橋脚のすぐ下の「千本松渡船場」の案内板発見。
 渡船は本来橋が掛けられない場所にあるものだろうが、この渡船場の上には立派な橋がかかっている。ここだけではなくて、木津川、千歳の渡船場の上にも立派な橋がある。橋を架ける際には渡船は廃止される予定だったが、住民の要請で存続されることになたらしい。橋が架かり確かにいつでも渡ることが出来るようになったものの、いずれの橋も河川を行きかう船舶に大型のものが少なくないためにやたらと高さのある大きな橋なので、車ならいざ知らず、歩いてとか自転車で渡るのには一般の人でもちょっと辛い。ましてや老人や子供を自転車に乗せてといった人には橋を渡るだけでも一大事なので渡船の存続を望むのも当然のことか。

 ここ千本松に架かる橋は通称めがね橋といわれ、上から見ると河を渡る部分がまっすぐで上り下りが螺旋状になっている。自動車で上り下りするとどの方向に走っているのかわからなくなる。螺旋状のスロープの手前に案内板があり、それに従って堤防に向かう。
 螺旋状のスロープの内側が広場というか野球のグランドになっていて、この日は少年野球をする大勢の子供たちがいた。渡船場に出るとこれまでの二箇所とは川の幅が倍以上広い。岸壁間230メートル。また大正区側の渡船場が橋の北側なのに、対岸の渡船場は橋の南側でその分渡る距離も長い。渡船場のつくりも大きい。少年野球を見に来ていた今までの2箇所の渡しは乗ったらすぐに対岸に着いたが、ここはさすがに川中の波の揺れも感じられ、船に乗っているなという実感がある。

 対岸に渡ってからは頭上の「千本松大橋」を渡って大正区に戻ることにする。渡船場から広い道に出て、信号を渡って螺旋スロープの歩道を登り始める。車に乗ってこの橋を渡るときは何周もしているように思うが、実は2周しかしてない。それでも直径100メートルほどのスロープを高さ35メートル以上(最高部で水面36メートルとのこと)まで上がっていく。徐々に視界が広がり、西成区南津守の工場街から大阪湾、大正区の中山製鋼所などが順次見えてくる。螺旋上の部分を終え川を渡る直線部分に出ると最高の見晴らしが拡がった。
 
川を渡り今度は螺旋スロープを下る。螺旋の中に出来たグランドが見え、横をひっきりなしに通る車の音の中に少年たちの歓声やコーチの叱咤する声などが響いている。スロープを下りきりさっき歩いてきた道との交差点の信号に出る。橋を渡るのにおよそ15分かかっていた。 



  信号を渡ってそのまままっすぐに西に進むと5分ほどで大正駅から最初に歩いた大通りと交わる「大運橋」の交差点に出る。実際の「大運橋」という橋はこの交差点の西500メートルほどのところにあるので、後で付け替えられたものかもしれない。そこを左(南)に曲がり船町という大正区の一番南の出島といっていいような大工場が集まった地帯に向かう。

 船町へ渡る唯一の橋「大船橋」を渡ると道の両側に映画「ブラックレイン」の撮影に使われた中山製鋼所の大工場群。カーブを曲がるとそこには工場などの無機質なものに萌えを感じるオタクの人たちには最高かもしれない赤茶けたパイプが伸びる工場の風景が広がっている。

 さらにまっすぐ進むとめがね橋(千本松大橋)と同じような螺旋のスロープが見えてきた。この橋は「新木津川大橋」で、この螺旋スロープの下は「木津川緑地」という広場だが、広場の名前を書いたプレートの横には「木津川飛行場跡」の碑と説明文がある。
 橋を渡るスロープには入らずに信号を渡って、天然ガスのスタンド「エコステーション」を超えたところに「木津川渡船場」の看板を発見。大運橋の交差点からおよそ15分くらい。橋に沿って看板から2分ほど歩かないと堤防に出ない。渡船場へのスロープで堤防の上に出ると対岸の渡船場が見える。対岸は住之江区になる。この川幅も238メートルと結構広い。もうすぐそこが大阪湾の為なのかもしれないが、市営8渡船の内7つが建設局による運営なのに、ここの渡船だけが港湾局が運営している。
 ここは昼間は一時間に1便しか運行していない。「新木津川大橋」を渡って帰ってくることも出来るが、対岸の渡船場から橋に乗れる場所までは結構距離がありそうだし、この大きな橋を渡って帰ってくるまでには1時間くらいかかってしまいそう。なので、今回はこの渡船は乗らないことにした。


 エコステーションまで戻り、来た道をさらに奥に向かう。海側の中山製鋼所と道を隔てた三菱瓦斯化学やラサ工業の前を通り、一番奥の市バスの西船町のバスのターン場所の前で右(北)にまがる。日立造船の前を行くと明るい色彩の絵が書かれた堤防の壁があり、そこに「船町渡船場」がある。エコステーションから10分ちょいかかっていた。

 この渡船場が8つのうちで一番岸間が狭く75メートル。ただ、他の渡船場の待合所はベンチの上にひさしが付いただけのものなのだが、ここは周りを囲われた待合室と呼べるもの。乗る人がそんなに多いのかな?
 ここでは昔、川を船が行き来する渡し舟ではなく、川中に船をいくつか並べてその上に板を敷いて人や自転車が渡っていたらしい。船を橋脚にした即席の橋ということで、貨物船が通るときには橋脚になっている船が動いて貨物船を通し、貨物船が行き過ぎるとまた並んで橋脚になっていた。川幅が狭いから出来たことなのだろうが、そんな光景が今でも見れるのなら、きっと大阪名所のひとつになっているだろう。
 ここでは補助輪のついた自転車に乗った幼稚園くらいの男児を連れたお母さんたちと乗船。S字を描くほどの川幅がないせいか、Uターンする形で発着するため同じ側面の扉が開いた。

    



  渡った先が同じ大正区の鶴町1丁目。ここから北奥の鶴町4丁目に向かう。渡船場から正面の赤茶の大きなマンションに向かい、大きな道路に出て左に曲がる。少し近道を取ることも出来るが、そのままバス道を歩く。「船町渡船場」から20分弱でバスの終点地「鶴町4丁目」に到着。
 
地理的に言えば先の船町が大正区の一番奥なのだが、地下鉄とJRの2本の鉄道が乗り入れてるとはいえ、大正区の一番北側までしかないため、公共交通機関といえばバスが主流の大正区で大正駅から「J」の字にしかこれないバスの路線から考えればこの鶴町4丁目が大正区の一番遠い地域とも言える。しかしここは市営や公団の住宅が立ち並ぶ大住居地で、バス路線は大正駅方面に向かうものでは大阪駅行きやなんば、大阪ドーム行きなどがあり、その他にも弁天町や住之江公園などいろんなところへバスで直接いけるところ。通勤時間帯には次から次へとバスが発車していく。
 今は港区の天保山方面を結ぶ有料道路の「なみはや大橋」がかかっているので、阪神高速湾岸線すぐに出られるし、そこから海底トンネルで南港も出れる。また、このなみはや大橋ののり口のすぐそばに世界最大級の家具チェーン店「IKEA」が2008年夏にオープン予定。この地区の名所になるかもしれない。
 それと、これから向かう大正内港の「千歳渡船場」の上には「千歳橋」という大きな橋が架けられ、同じ大正区内でも近くて遠かった対岸と結ばれて、車を使って大正区の中心街に向かうのには便利になっている。


 「鶴町4丁目」の交差点を右に曲がって後は青い「千歳橋」を目標に歩く。公団の並びを過ぎ「千歳橋」の歩行者用の階段が見え、その奥に「千歳渡船場」の看板が見える。
 渡船場に行く前に千歳橋に上ってみる。千島団地横の「昭和山」、弁天町の「オーク200」、海遊館横の観覧車などがきれいに見える。
 時間を考えるとこのまま大正区最後の「甚兵衛渡船場」に明るいうちに行くことも出来るが、きっと今日はいい夕日が見れるような気がして、「甚兵衛渡船場」には向かわず、この一番距離が長い渡船の上で夕日を見ることにした。少し時間をつぶして渡船場に向かう。

 この大正内港は尻無川の河口に当たるが、京セラドーム(大阪ドーム)の横を流れている小さな川なのに、ここまで来るとその川とは全く別物。ここは大型船舶が出入りするべく造られているのでさすがに広い。大型の貨物船が着岸する突堤がいくつもある。内海ではなく内港となっているのは港の先がどんどん埋め立てられていったからなのだろうか?
 渡船はこの内港の入り口の対岸を結ぶ。大型の貨物船がすれ違うことを考えれば当然なのだろうが、対岸までは371メートルもあり、川というよりは海の様相。船に乗り込み太陽を探すと期待通りに「なみはや大橋」とその向こうの湾岸線の「みなと大橋」の間にきれいに輝いていた。





 









 対岸に着き千歳橋の下から歩くこと15分以上かかってやっと大正区のメインの大通りに出た時には夜の帳が下りかけていた。
 
 今回は歩いての散策だったが、今度は是非とも自転車で回ってみたいと思う。 





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